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【コラム】課題曲を例とした音楽解釈・音楽分析への入口(課題曲Ⅴ:メタモルフォーゼ〜吹奏楽のために〜)

【コラム】「課題曲を例とした音楽解釈・音楽分析への入口」

コンクール応援企画として投稿しておりますコラムもいよいよ最後となりました!

皆様、最後までお付き合いいただきましてありがとうございました♪

第五弾は、課題曲Ⅴ:メタモルフォーゼ〜吹奏楽のために〜(川合清裕)です!

音楽学から見た課題曲とは…

それでは早速、石原勇太郎氏による音楽学の世界へどうぞ!

 

文章:石原 勇太郎(音楽学

 

課題曲V:メタモルフォーゼ~吹奏楽のために~(川合 清裕)――変容、現代音楽の分析ツール

 若手作曲家の川合清裕さんの《メタモルフォーゼ》は、拍子の変更がとても多いですが、流れに不自然さを全く感じさせない見事な作品です。《メタモルフォーゼ》とは、川合さんが述べているように「変容」、「(生物の)変態」を示す言葉です。同様の題名は、R.シュトラウスの《メタモルフォーゼン》がすぐに思いつきます。つまり、音楽の内容としては何かが変容してゆく様を描いた、あるいは変容すること自体に意味があると考えるのが普通です。そして、この意味を明らかにするためには、特にこの《メタモルフォーゼ》の場合、分析が有効になります。

 川合さんはスコアの中で「1曲を通して変容するのは“調性”と“拍子”」であると述べています(川合: 2)。この言葉に従って、まずは拍子に注目してみると、作品が進むにつれて、徐々に拍子の分母が細かくなってゆくのがわかります。しかし、ただ分母が細かくなるのを確認しただけでは、音楽の中で何が起こっているのかわかりません。練習番号Eで旋律の音価が瞬時に変更されています。つまり、ここで「なにか」が起こったのです。一方、調性の変容というのは、つまり「中心的な音組織のある部分(=調性のある部分)」が「中心的な音組織のない部分(=調性がない=無調の部分)」へ変化することです(『すいそうがく』: 4)。このような作品は分析が非常に難しいですが、一方で非常に分析しがいのある作品でもあるのです。

 まず、「変容」について良く知りたいという方は音楽学者R.レティの『名曲の旋律学 クラシック音楽の主題と組立て』(水野信男 他訳)を参照してみることをお勧めします。この著書では旋律の変容について詳細に書かれています。川合さん自身は、「調性」と「拍子」の2つが変容すると述べていましたが、それらの変容は同時に、旋律的な変容も生み出しています。また、『名曲の旋律学』は、一時期音楽学の世界でも流行ったものですので、《メタモルフォーゼ》以外の作品(例えば、今年度の他の課題曲)の分析に役立つ視点も提供してもらえると思います。

 そして、現代音楽を分析するためのツールも、音楽分析の世界にはいくか存在します。一般に「ピッチクラスセット理論(Musical set theory)」あるいは「ポスト調性理論(Post-Tonal Theory)」と呼ばれる理論があります。これは未だアメリカの音楽学の中で発展し続けている最先端の分析理論です。「ポスト調性」という名の通り、調性以後、具体的にはR.ワーグナー以後の無調の音楽を分析する際に使用されます。ひとつひとつの音に番号付けを行い、それらをいくつかのセットとして扱うことで、作品内に存在する、見えざる秩序を見出すことが可能になります。この理論の第一人者A.フォートの『無調音楽の構造 ピッチクラス・セットの基本的な概念とその考察』(森あかね 訳)が、日本語で読むことができるので、《メタモルフォーゼ》のような作品はもちろん、B.バルトークやI.ストラヴィンスキーの作品を分析したい方には、特にお勧めです。《メタモルフォーゼ》の場合、この理論が特に有効だと考えるのは、調性の変容過程を明らかにできる可能性があるためです。《メタモルフォーゼ》のような作品を解釈するためには、まずは作品を分析することから始める必要があります。その上で、作曲者の解説や、他者の解説などを検証しつつ、少しずつ解釈を組み上げてゆくのが確実なのではないでしょうか。

 

・まとめ

 以上、それぞれ異なった視点、方法で5つの課題曲を、極めて簡単にとらえてみました。本来は分析にしろ解釈にしろ、より深く作品へと入っていくものですが、ここではそれらの入口を少しだけ紹介することに重きをおいてみました。少しでも、皆様のお役に立てていただければ幸いです。最後に音楽分析についてゴナールが述べていた興味深い見解を引用して本稿を閉じさせていただきます――[音楽理論は]わたしたちの感性が受け取るものと、それを理論的に表現することとを橋渡しする、すなわち、「感覚的理解 saveur」と「知的理解 savoir」とを橋渡しすることが、もっとも大切であることに変わりない。(ゴナール: 11)

 

参考文献・楽譜:

川合 清裕 2017 『メタモルフォーゼ~吹奏楽のために~』(東京: 全日本吹奏楽連盟

フォート, アレン(Forte, Allen) 2012 『無調音楽の構造 ピッチクラス・セットの基本的な概念とその考察』 森あかね 訳 (東京: 音楽之友社)[The Structure of Atonal Music. (New Haven: Yale Univ. Press, 1973)]

ゴナール, アンリ(Gonnard, Henri) 2015 『理論・方法・分析から調性音楽を読む本』 藤田茂 訳 (東京: 音楽之友社)[Introduction à musique tonale, Perspectives théoriques, méthodologiques et analytiques. (Paris: Champion, 2011)]

レティ, ルードルフ(Reti, Rudolph) 1995 『名曲の旋律学 クラシック音楽の主題と組立て』 水野信男 他訳 (東京: 音楽之友社)[The Thematic Process in Music. (New York: Macmillan, 1951)]

全日本吹奏楽連盟 2016 「すいそうがく 全日本吹奏楽連盟会報」(『一般社団法人 全日本吹奏楽連盟』2016年12月)

http://www.ajba.or.jp/suisougaku203.pdf(2017年5月参照)

 

※このコラムの著作権は石原勇太郎氏に帰属します。無断転載等はご遠慮いただきますようよろしくお願い申し上げます。

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石原 勇太郎 プロフィール

1991年生まれ、千葉県八千代市出身。12歳よりコントラバスを始める。2014年、東京音楽大学器楽専攻(コントラバス)卒業。同大音楽学課程修了。2016年、東京音楽大学大学院 修士課程音楽学研究領域修了。現在、同大大学院 博士後期課程(音楽学)在学中。平成28年度給費奨学生。専門は、A.ブルックナーを中心とするロマン派の交響曲
2014年、《天空の旅―吹奏楽のための譚詩―》で第25回朝日作曲賞受賞。2015年度全日本吹奏楽コンクール課題曲として採用される。以降、吹奏楽を中心に作品を発表している。
これまでに、コントラバスを幕内弘司、永島義男、作曲を村田昌己、新垣隆、藤原豊、指揮を三原明人、尺八を柿堺香の各氏に師事、また大学4年次より藤田茂氏の下で音楽学の研究を進めている。日本音楽学会、千葉市音楽協会各会員。
作曲活動の他、曲目解説等の執筆、中学・高等学校の吹奏楽部指導やアマチュア・オーケストラのトレーナーを勤める等、幅広く活動している。