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【コラム】課題曲を例とした音楽解釈・音楽分析への入口(課題曲IV:マーチ「春風の通り道」)

【コラム】「課題曲を例とした音楽解釈・音楽分析への入口」

コンクール応援企画として投稿しておりますコラムもいよいよ終盤です。

第四弾は、課題曲IV:マーチ「春風の通り道」(西山 知宏)です!

音楽学から見た課題曲とは…

それでは早速、石原勇太郎氏による音楽学の世界へどうぞ!

 

文章:石原 勇太郎(音楽学

・課題曲IV:マーチ「春風の通り道」(西山 知宏)――作品の調計画

 西山知宏さんの《マーチ「春風の通り道」》は、《マーチ・シャイニング・ロード》と同じ調、つまりB-Durの主部とEs-Durのトリオで構成させています。しかし、《マーチ・シャイニング・ロード》とは違った調計画がなされているのが《マーチ「春風の通り道」》でもあります。

 《マーチ「春風の通り道」》は、B-DurからEs-Durのトリオ、そして練習番号HでB-Durへと戻ってきます。調の流れというのは、実は音楽の根底を支える力強い海流のようなものです。例えば、古典派の作曲家(例えばJ.ハイドンやW.A.モーツァルトなど)の交響曲やピアノ・ソナタを見てみると、その作品の主調で始まり、転調し、主調へ戻ってきて終わるという大きな基本的枠組みがあります。もちろん、《マーチ・シャイニング・ロード》のようにB-DurからEs-Durへ転調して、そのまま終わるというのも全く問題ではありません(G.マーラーやC.ニールセンの交響曲のように発展的調性(Progressive tonality)の作品として理解できます)。しかし、《マーチ「春風の通り道」》のように、最初の調へ戻るというのも、大きな意味を持っているのです。

 ソナタ形式では、主題が2つあり、それが再現されるというのが重要なのではなく、「調の回帰」と共に最初の主題が再現されるということが重要なのです。行進曲はソナタ形式ではありませんが、調が戻るという「エネルギー」は同じように存在しています。さらも興味深いことに、《マーチ・シャイニング・ロード》と同じく、《マーチ「春風の通り道」》でも主部の主題と、トリオの主題が練習番号Hで結合されています。つまり、ただでさえ主題が結合するというのは特別なことであったのが、調の回帰という要素も加わり、練習番号Hは特別に強調されることになるのです(そう考えれば、練習番号Hの1小節前のrit.は、B-Durのドミナントを強調するためのものだと考えることもできます)。

 調の流れをエネルギーとして捉え、理解しようとした20世紀の音楽学者たちを「エネルギー主義者(独:Energetiker)」と呼びます。今ではそのような考えを真面目にする人はいなくなってしまいましたが、エネルギー主義者たちは、音楽を「生きた状態」で説明したかったそうです。《マーチ「春風の通り道」》は、調ももちろん、主題、そして前奏も最終的に再現されます。この再現という要素も解釈のひとつのヒントになるかもしれません。

 

参考文献・楽譜:

西山 知宏 2017 『マーチ「春風の通り道」』(東京: 全日本吹奏楽連盟

 

※このコラムの著作権は石原勇太郎氏に帰属します。無断転載等はご遠慮いただきますようよろしくお願い申し上げます。

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石原 勇太郎 プロフィール

1991年生まれ、千葉県八千代市出身。12歳よりコントラバスを始める。2014年、東京音楽大学器楽専攻(コントラバス)卒業。同大音楽学課程修了。2016年、東京音楽大学大学院 修士課程音楽学研究領域修了。現在、同大大学院 博士後期課程(音楽学)在学中。平成28年度給費奨学生。専門は、A.ブルックナーを中心とするロマン派の交響曲
2014年、《天空の旅―吹奏楽のための譚詩―》で第25回朝日作曲賞受賞。2015年度全日本吹奏楽コンクール課題曲として採用される。以降、吹奏楽を中心に作品を発表している。
これまでに、コントラバスを幕内弘司、永島義男、作曲を村田昌己、新垣隆、藤原豊、指揮を三原明人、尺八を柿堺香の各氏に師事、また大学4年次より藤田茂氏の下で音楽学の研究を進めている。日本音楽学会、千葉市音楽協会各会員。
作曲活動の他、曲目解説等の執筆、中学・高等学校の吹奏楽部指導やアマチュア・オーケストラのトレーナーを勤める等、幅広く活動している。