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【コラム】課題曲を例とした音楽解釈・音楽分析への入口(課題曲Ⅲ:インテルメッツォ)

【コラム】「課題曲を例とした音楽解釈・音楽分析への入口」

第三弾は、課題曲Ⅲ:インテルメッツォ(保科洋)です!

音楽学から見た課題曲とは…

それでは早速、石原勇太郎氏による音楽学の世界へどうぞ!

 

文章:石原 勇太郎(音楽学

課題曲IIIインテルメッツォ(保科洋)――他作品との関連、作曲者と解釈者

 

保科洋さんは、皆さんも良くご存知の作曲家だと思います。《インテルメッツォ》では、同じ作曲家の他作品との関連、そして作曲者と解釈者の関係について考えてみたいと思います。

 《インテルメッツォ》に見られる、保科さんの美しい書法に、《風紋》などとの類似を感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。保科さんのように、多くの作品を発表している作曲家であれば、作品の比較は十分に可能です。

 

 平行に下行してゆく付加音を伴う和音、簡素な旋律、香りの立ち昇るような上行音型が連続する繊細な前奏は、《インテルメッツォ》にも《風紋》にも共通します。また、《インテルメッツォ》の練習番号5のファンファーレ風の主題も、《風紋》との類似を見出せるかもしれません。類似を見出すのは、ただ似ていることを確認するのではなく、解釈の幅を広げるためです。例えば「《風紋》ではこの音型がこう考えられているけれど、《インテルメッツォ》ではどうだろうか」というように、比較を通して《インテルメッツォ》を客観的にとらえていくことが可能になります。この方法は、クラシック音楽の作品の解釈では頻繁に使用されます(冒頭で触れたフローロスの著書でも多用されています)。

 

 また、全日本吹奏楽連盟の会報『すいそうがく』に寄せたエッセイで、《インテルメッツォ》について保科さんは次のように書いています――「Intermezzo」は「歌(音楽の原点)のある曲」を意図して作ったつもりですが、「歌心」を楽譜(スコア)に記すのには限界があります。[中略]スコアに書けない「歌」を行間から感じ取って演奏していただければこれに勝る喜びはありません!たとえそれが作者の意図とかけ離れた表現であっても…(『すいそうがく』: 3)。これは音楽解釈学的な見解です。「スコアに書けない「歌」を行間から感じる」ことは解釈に他なりません。「開かれた作品」の概念で有名な哲学者U.エーコは、芸術作品について「完成され閉ざされた形としての芸術作品は、同様に開かれたものでもあり、無数の異なる仕方で解釈されうるが、その結果、複製不能な独自性が変質することにはならないのである。こうして享受とはすべて解釈にして演奏=上演なのである。なぜなら、それぞれの享受において作品はある独創的な視点のもとに甦るのであるから」(エーコ: 37-38)と述べています。

 

 作曲者が述べたことが絶対である、というのはいつの時代にも言われてきました。しかし、作品と真摯に向き合って生まれた解釈が、たとえ作曲者が思いもしなかったものであっても、作品の本質を捻じ曲げることはありません。しかし、それは様々な情報を集め、分析を行い、音楽と向き合った「真摯」な場合に限ります。解釈の名を借り、楽器や音そのものを変えたり、指定とは全く異なるテンポ設定を行うことを、音楽解釈学では解釈と呼びません。あくまで、そこにある音楽と、その奥にいる作曲者と私たち解釈者が対話した中から生まれてくるものを解釈と呼んでいるのです。題名のIntermezzoの語源は、「中間」という意味のラテン語intermediusです。《インテルメッツォ》は解釈と言う、「楽譜」と「演奏」の「中間」で行う行為を、最も探求できる課題曲のひとつと言えるのではないでしょうか。 

 

参考文献・楽譜:

エーコ, ウンベルト(Eco, Umberto) 2011 『開かれた作品』 篠原資明 他訳 (東京: 青土社)[Opera Aperta. (Milano: Bompiani, 1967)]

保科 洋 2017 『インテルメッツォ』(東京: 全日本吹奏楽連盟

全日本吹奏楽連盟 2016 「すいそうがく 全日本吹奏楽連盟会報」(『一般社団法人 全日本吹奏楽連盟』2016年12月)

http://www.ajba.or.jp/suisougaku203.pdf(2017年5月参照)

 

※このコラムの著作権は石原勇太郎氏に帰属します。無断転載等はご遠慮いただきますようよろしくお願い申し上げます。

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石原 勇太郎 プロフィール

1991年生まれ、千葉県八千代市出身。12歳よりコントラバスを始める。2014年、東京音楽大学器楽専攻(コントラバス)卒業。同大音楽学課程修了。2016年、東京音楽大学大学院 修士課程音楽学研究領域修了。現在、同大大学院 博士後期課程(音楽学)在学中。平成28年度給費奨学生。専門は、A.ブルックナーを中心とするロマン派の交響曲
2014年、《天空の旅―吹奏楽のための譚詩―》で第25回朝日作曲賞受賞。2015年度全日本吹奏楽コンクール課題曲として採用される。以降、吹奏楽を中心に作品を発表している。
これまでに、コントラバスを幕内弘司、永島義男、作曲を村田昌己、新垣隆、藤原豊、指揮を三原明人、尺八を柿堺香の各氏に師事、また大学4年次より藤田茂氏の下で音楽学の研究を進めている。日本音楽学会、千葉市音楽協会各会員。
作曲活動の他、曲目解説等の執筆、中学・高等学校の吹奏楽部指導やアマチュア・オーケストラのトレーナーを勤める等、幅広く活動している。