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【コラム】課題曲を例とした音楽解釈・音楽分析への入口(課題曲Ⅱ:マーチ・シャイニング・ロード)

【コラム】「課題曲を例とした音楽解釈・音楽分析への入口」

第二弾は、課題曲Ⅱ:マーチ・シャイニング・ロード(木内涼)です!

音楽学から見た課題曲とは…

それでは早速、石原勇太郎氏による音楽学の世界へどうぞ!

 

文章:石原 勇太郎(音楽学

 

課題曲II:マーチ・シャイニング・ロード(木内涼)――主題の結合

 東京藝術大学の楽理科で音楽学を学んでいる木内涼さんの作品です。主部のB-Durに対してトリオで下属調のEs-Durに至るという、行進曲に典型的な調計画(Tonal plan)がなされています。

 《マーチ・シャイニング・ロード》の最も興味深い点は、スコアの中で木内さん自身が述べているように「後半[練習番号]J以降は、二つの主要な旋律が同時に登場」(木内: 2)する部分だと思います。練習番号Jで、垂直に結合される2つの主要主題とは、主部とトリオの主題のことです。主部の主題は、練習番号Aから提示される軽やかな主題。トリオの主題は、練習番号Eから提示されるなだらかな主題です。いくつかの主題が結合する例としては、W.A.モーツァルトの《交響曲第41番》や、A.ブルックナーの《交響曲第8番》が挙げられます。自分の専門分野で申し訳ないのですが、最後に全ての楽章の主要主題が垂直に結合されるブルックナーの《交響曲第8番》は、特別な意味があるのだと、ブルックナー研究の中では言われています。例えば、音楽学者J.クラウスは、全ての主題が結合されることで、交響曲が「永遠の時間を獲得した」のだと考えています(Kraus: 266)。このように、主題が結合するというのは、音楽的に非常に強い意味を持つものなのです。

 《マーチ・シャイニング・ロード》の場合に興味深いのは、結合される2つの主題の性格が正反対であることです。もちろん、トリオの旋律は練習番号Jではmarcatoの指示が与えられているため、多少主部の正確に寄りはします。しかし、やはりキャラクターの違いは楽譜上でも明確です。

 結合される際に、主部の旋律はB-DurではなくEs-Durになっていることも、解釈を作り上げるうえでひとつの鍵になります。練習番号JからをB-Durへ回帰させることも可能であったはずですが、木内さんはそうしませんでした。そこには作者の創造性が働いているのです。なぜEs-Durで主題を結合させたのか、いくつかの可能性が考えられます。このような問いは、無意味に思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、このような問いの連続の中で、音楽学者は音楽の解釈・意味を組み立ててゆくのです。

 

参考文献・楽譜:

2017 『マーチ・シャイニング・ロード』(東京: 全日本吹奏楽連盟

Kraus, Joseph C. 2001 “Musical time in the Eighth Symphony.” Howie, Crawford eds. Perspectives on Anton Bruckner. (Aldershot: Ashgate) 259-269. 

 

※このコラムの著作権は石原勇太郎氏に帰属します。無断転載等はご遠慮いただきますようよろしくお願い申し上げます。

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石原 勇太郎 プロフィール

1991年生まれ、千葉県八千代市出身。12歳よりコントラバスを始める。2014年、東京音楽大学器楽専攻(コントラバス)卒業。同大音楽学課程修了。2016年、東京音楽大学大学院 修士課程音楽学研究領域修了。現在、同大大学院 博士後期課程(音楽学)在学中。平成28年度給費奨学生。専門は、A.ブルックナーを中心とするロマン派の交響曲
2014年、《天空の旅―吹奏楽のための譚詩―》で第25回朝日作曲賞受賞。2015年度全日本吹奏楽コンクール課題曲として採用される。以降、吹奏楽を中心に作品を発表している。
これまでに、コントラバスを幕内弘司、永島義男、作曲を村田昌己、新垣隆、藤原豊、指揮を三原明人、尺八を柿堺香の各氏に師事、また大学4年次より藤田茂氏の下で音楽学の研究を進めている。日本音楽学会、千葉市音楽協会各会員。
作曲活動の他、曲目解説等の執筆、中学・高等学校の吹奏楽部指導やアマチュア・オーケストラのトレーナーを勤める等、幅広く活動している。