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吹奏楽やアンサンブル楽譜の出版を行うムジカ・エテルナ合同会社のブログです。出版作品をちょっと変わった角度から紹介したり、新作の発売情報をいち早くお届けしたりします。演奏会の情報なども告知していきます。

【コラム】課題曲を例とした音楽解釈・音楽分析への入口(課題曲Ⅰ:スケルツァンド)

 

【コラム】「課題曲を例とした音楽解釈・音楽分析への入口」

本日より、コンクール応援企画として課題曲を用いてコラムを掲載します!

音楽学から見た課題曲とは…

それでは早速、石原勇太郎氏による音楽学の世界へどうぞ!

 

文章:石原 勇太郎(音楽学

●まえがき

 吹奏楽部顧問の先生、指導者の皆様、こんにちは。ここでは、本年度の全日本吹奏楽コンクール課題曲を例として、音楽学の分野では、一般的にどのように音楽の解釈・分析が行われるかを、簡単にですが説明させていただきます。音楽学――すなわち、音楽を学問的に研究する世界では、「音楽解釈学」という長い学問的伝統を持つ分野が存在します。音楽解釈学の権威、音楽学者C.フローロスの『マーラー 交響曲のすべて』(前島良雄 他訳)という著書があります。著書の中で、フローロスはマーラーに関する歴史的・伝記的事実(書簡や、知人の証言)、マーラーの性格、そして交響曲の分析などを通して、対象となる交響曲の「解釈」を作り上げていきます。その過程は実にロマンティックでスリリングです。音楽を解釈することは、大変難しいことですが、吹奏楽指導の中で、学生と共にそれを作り上げることは、最後には良い結果をもたらすと思います。「音楽解釈」ももちろん、「音楽分析」にも完全なる正解というものはありません。上述のフローロスの研究も、常に称賛と批判が起こります。ここでは、課題曲の解釈や分析の可能性を見てゆきたいと思います。明確な答えを出すようなものではないですが、少しでも、音楽を解釈してゆくこと、音楽を分析することのヒントや入口になれば幸いです。それでは、それぞれの課題曲をそれぞれ異なる視点から見てみましょう。

 

●課題曲I:スケルツァンド(江原大介)――主題労作と音程、題名のイタリア語について

 課題曲としては2009年度全日本吹奏楽コンクール課題曲V《躍動する魂》でもお馴染みの、江原大介さんの作品です。《スケルツァンド》では、主題労作、音程、そして題名について見てみることにします。

 主題労作(独:thematische Arbeit)とは、作中に出てくる主題や動機を核として、作品を展開させてゆく方法を指します。《スケルツァンド》には色々な場面がありますが、全体に統一感を感じるのではないでしょうか。その要因のひとつが主題労作です。練習番号Bで本作の主要主題が提示されますが、22小節4拍目と23小節1-2拍目の音型が、《スケルツァンド》の核となる動機と言えるでしょう。さらに言えば、これらの動機は、すでに冒頭2小節以降で予告されています。主部へと戻ってゆく練習番号E以降では、この動機が逆行して現れます。一見関係の薄そうな練習番号Dからの抒情的な部分も、実はこの動機が隠されています。L.v.ベートーヴェンの《交響曲第5番》のように、作中で何度も動機が使用されているのです。

 もうひとつ、《スケルツァンド》の面白いところは、「三全音(増4度/減5度の音程)」が、和音の連結の中でふんだんに用いられていることです。この「三全音」は中世の時代には「音楽の悪魔(羅:diabolus in musica)」と呼ばれた不協和な音程で、R.ワーグナー以降には転調の手法としても好まれた個性的な響きを持つ音程です。例えば、冒頭1-2小節目はB-Durの主和音ですが、3小節目でE-Durのトニックが瞬間的に現れることで三全音の響きが生まれます(1-8小節は、分析方法によってはB-DurとE-Durの同時進行(Tonal dualism)と考えることも可能です)。

 最後に題名について考えてみましょう。「Scherzando」は「おどけて」というような音楽用語だと思います。これはもともと「予期しないような、嘘のような出来事」を表すイタリア語です。上で見たような「三全音」を駆使した転調や、拍子を変更することによる旋律のアクセントの変化が、予期しないような出来事を《スケルツァンド》にもたらすと言えるかもしれません。主題労作を用いた厳格な展開と、「三全音」を駆使した自由な転調が、《スケルツァンド》の魅力とも言えると個人的には考えています。いわゆる「標題音楽」ではありませんが、多様な分析方法を用いて、様々にアプローチ可能なとても興味深く素晴らしい作品であると思います。

 

※このコラムの著作権は石原勇太郎氏に帰属します。無断転載等はご遠慮いただきますようよろしくお願い申し上げます。

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石原 勇太郎 プロフィール

1991年生まれ、千葉県八千代市出身。12歳よりコントラバスを始める。2014年、東京音楽大学器楽専攻(コントラバス)卒業。同大音楽学課程修了。2016年、東京音楽大学大学院 修士課程音楽学研究領域修了。現在、同大大学院 博士後期課程(音楽学)在学中。平成28年度給費奨学生。専門は、A.ブルックナーを中心とするロマン派の交響曲
2014年、《天空の旅―吹奏楽のための譚詩―》で第25回朝日作曲賞受賞。2015年度全日本吹奏楽コンクール課題曲として採用される。以降、吹奏楽を中心に作品を発表している。
これまでに、コントラバスを幕内弘司、永島義男、作曲を村田昌己、新垣隆、藤原豊、指揮を三原明人、尺八を柿堺香の各氏に師事、また大学4年次より藤田茂氏の下で音楽学の研究を進めている。日本音楽学会、千葉市音楽協会各会員。
作曲活動の他、曲目解説等の執筆、中学・高等学校の吹奏楽部指導やアマチュア・オーケストラのトレーナーを勤める等、幅広く活動している。